降圧薬使用とアルツハイマー病との関連
高血圧などの生活習慣病は認知症のリスク因子として知られており、Lennonらは2019年にアルツハイマー病と中年期の高血圧との関連について検討し、収縮期血圧高値はアルツハイマー病のリスクを最大25%増加させると報告しました。
この他にも高血圧がアルツハイマー病発症に何らかの影響を与える報告はありますが、高血圧治療薬(降圧薬)によるアルツハイマー病のリスク軽減に対する関連は十分知られていません。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン薬学部のM. Adesuyan氏らは、認知機能が正常な高血圧症の成人患者における降圧薬使用とアルツハイマー病発症率との関連を調査し「Adesuyan M, et al. J Prev Alzheimers Dis. 2022;9:715-724.」に報告しました。
その結果、降圧薬の使用とアルツハイマー病発症率低下との関連が認められ、とくにアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の使用は、降圧薬の中でも最も効果が期待できるものでした。
この結果から、血圧を下げる=アルツハイマー病発症率低下ではない可能性があり、アンジオテンシンIIの影響についてさらなる調査が必要と報告しています。
研究について
創刊から2022年2月18日までのOvid MEDLINE、Ovid Embase、Ovid PsycINFO、Web of science、Scopusより解析。
認知機能が正常な40歳以上の高血圧症患者さんが対象で、9つの研究から合計1,527,410人が対象となっています。
使用した降圧薬の種類としてはアンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤、β遮断剤、カルシウム拮抗剤、利尿剤となっています。
降圧薬の使用により、アルツハイマー病の発症リスクが6%低下していることが分かりました(RR:0.94、95%CI:0.90~0.99、p=0.01)。
とくにアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、他の降圧薬と比較してアルツハイマー病の発症リスクが低下していた結果でした(RR:0.78、95%CI:0.68~0.88、p<0.001)。
また、同じレニンーアンジオテンシンーアルドステロン系(RAAS)であるアンジオテンシン変換酵素阻害剤を組み合わせた試験においてもアルツハイマー病の発症リスクの低下が確認され、5年以上の経過を確認できたもので22%の低下が示されました(RR:0.78、95%CI:0.67~0.91、p=0.002)。
認知症は世界的に広がっており、5000万人以上が罹患し、世界の死因トップ10の1つとなっています。
健康的な加齢を促進し、認知症のみならず、心臓疾患や脳血管障害を予防するためにも高血圧を含めた生活習慣病対策は必要と考えます。
出典
Adesuyan M, et al. J Prev Alzheimers Dis. 2022;9:715-724