メニュー

パーキンソン病

パーキンソン病とは

中脳黒質にあるドパミン神経細胞の減少により、神経伝達物質であるドパミンが不足することにより発症する病気です。
ドパミンが不足することにより、体が動きにくくなる、体が震えるなどの運動障害が中心となる症状が目立ちますが、便秘などの自律神経障害や痛みや睡眠障害などの運動障害以外の非運動症状も認められます。

パーキンソン病の診断基準 International Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)診断基準(2015)

臨床的に確実なパーキンソン病
パーキンソニズムが存在しさらに
1.絶対的除外基準に抵触しない
2.少なくとも2つの支持的基準に合致する
3.相対的除外基準に抵触しない

臨床的にほぼ確実なパーキンソン病
パーキンソニズムが存在しさらに
1.絶対的除外基準に抵触しない
2.相対的除外基準と同数以上の支持的基準がみられる。ただし2つを超える相対的除外基準がみられてはならない。

支持的基準
1.明白で劇的なドパミン補充療法に対する反応性がみられる。この場合、初期治療の段階では正常かそれに近いレベルまで改善がみられる必要がある。もし初期治療に対する反応性が評価できない場合は以下のいずれかで判断する。
 *用量の増減により顕著な症状の変動がみられる。または患者または介護者より治療により顕著な改善がみられたことが確認できる
*明らかに顕著なオン/オフ現象がみられる
2.L-ドパ誘発性のジスキネジアがみられる
3.四肢の静止時振戦が診察上確認できる
4.他のパーキンソニズムを示す疾患と鑑別診断上、80%を超える特異度を示す検査法が陽性である。現在この基準を満たす検査として以下の2つが挙げられる
 *嗅覚喪失または年齢・性を考慮したうえで明らかな嗅覚低下
 *MIBG心筋シンチグラフィによる心筋交感神経系の脱神経所見

絶対的除外基準
1.小脳症状がみられる
2.下方への核上性眼球運動障害がみられる
3.発症5年以内に前頭側頭型認知症や原発性進行性失語症の診断基準を満たす症状がみられる
4.下肢に限局したパーキンソニズムが3年を超えてみられる
5.薬剤性パーキンソニズムとして矛盾のないドパミン遮断薬の使用歴がある
6.中等度以上の重症度にもかかわらず、高用量のL-ドパによる症状の改善がみられない
7.明らかな皮質性感覚障害、肢節観念運動失行や進行性失語がみられる
8.シナプス前性のドパミン系が機能画像検査により正常と評価される
9.パーキンソニズムをきたす可能性のある他疾患の可能性が高いと考えられる

相対的除外基準
1.5年以内に車椅子利用となるような急速な歩行障害の進展がみられる
2.5年以上の経過で運動症状の増悪がみられない
3.発症5年以内に重度の構音障害や嚥下障害などの球症状がみられる
4.日中または夜間の吸気性喘鳴や頻繁に生じる深い吸気など、吸気性の呼吸障害がみられる
5.発症から5年以内に以下のような重度の自律神経障害がみられる
 *起立性低血圧:立位3分以内に少なくとも収縮期で30mmHgまたは拡張期で15mmHgの血圧低下がみられる
 *発症から5年以内に重度の尿失禁や尿閉がみられる
6.年間1回を超える頻度で繰り返す発症3年以内の転倒
7.発症から10年以内に、顕著な首下がりや手足の関節拘縮がみられる
8.5年の罹病期間のなかで以下のようなよくみられる非運動症状を認めない
 *睡眠障害:睡眠の維持障害による不眠、日中の過剰な傾眠、レム睡眠行動障害の症状
 *自律神経障害:便秘、日中の頻尿、症状を伴う起立性低血圧
 *嗅覚障害
 *精神症状:うつ状態、不安、幻覚
9.他では説明できない錐体路症状がみられる
10.経過中一貫して左右対称性のパーキンソニズムがみられる

パーキンソニズムの主な原因薬品 *パーキンソン病診療ガイドライン2018より

パーキンソン病の原因は?

明らかな原因は分かっていませんが、遺伝や環境に影響するとされています。 日本では10万人あたり100〜180人の方がパーキンソン病とされています。年齢も発症に影響されるとされ、高齢社会がすすむ日本では今後さらに増えるとされています。 50歳から65歳に多いですが、高齢になるほど発症率が高くなり、60歳以上では100人に1人程度が発症するとされています。 なお40歳未満では極めて低く、10万人あたり1人未満の発症と推計されています。 性別については世界的には女性よりも男性に高い傾向ですが、アジアでは他の地域よりも男女差が少ない傾向で、全体的には男女差は認められません。 環境因子として、除草剤や殺虫剤など農薬への暴露や乳製品の摂取は発症を促進するとされています。一方で喫煙の習慣、アルコールやカフェインの摂取、抗酸化作用のある食品やサプリメント、運動の習慣は発症を抑制することを示唆する報告がありますが、結論は出ていません。

パーキンソン病の症状は?

パーキンソン病の特徴的な症状は、 体が動かしにくくなる動作緩慢、手や足がふるえる振戦、体が固くなる固縮、バランスを崩してしまう姿勢反射障害が特徴的な症状で、これらを総称して4大症状と呼びます。 また、便秘などの自律神経症状、匂いがわかりにくくなる嗅覚を含めた感覚障害、物忘れや元気がないうつ症状などの認知・精神機能障害、睡眠障害などの非運動症状も注目されています。

無動(動作緩慢)

字が書きにくい、字が小さくなってしまう、箸が使いにくい、歩こうとした時に足がすくんでしまうすくみ足、歩くと段々と早くなって止まれなくなってしまう加速歩行などがあります。

静止時振戦

じっとしている時に手や足が震えてしまう症状で、緊張など精神的ストレスがかかると増悪してしまうことがありますが、睡眠中は消失することが多いです。 パーキンソン病では右が強いなど左右差が目立つことが特徴です。

筋強剛(固縮)

体が固くなってしまうことです。

姿勢反射障害

体が前かがみになる、バランスを崩しやすくなることで、初期にみられることは少なく、病気の進行に従って出現します。 病初期からみられる場合は、進行性格上性麻痺など他のパーキンソン病と似た疾患でないか見極める必要があります。

パーキンソン病の検査・診断は?

血液検査

パーキンソン病により異常は認めませんが、甲状腺ホルモン異常によってパーキンソン病と似た症状が出ることがありますので鑑別するために検査を行います。

画像検査

・頭部MRI、CT検査

 パーキンソン病と似たような症状を起こす疾患の鑑別として頭部MRI検査や頭部CT検査を行います。

・MIBG心筋シンチグラフィ

 パーキンソン病を含むレビィ小体病では、心臓交感神経の変性・脱落に伴い、心臓のMIBG(3 meta-iodobenzylguanidine)集積が低下します。MIBG心筋シンチグラフィの集積低下の程度は、病理学的に心臓交感神経の脱落と相関するとされています。

A:健康成人、 B:パーキンソン病患者さん:心臓部分にMIBGの集積がほとんど認められません
*パーキンソン病診療ガイドライン2018より

・脳血流シンチグラフィー:SPECT(single photon emission CT)

 パーキンソン病では、後頭葉、頭頂葉、前頭葉、両側の後部帯状回、楔前部、前部帯状回の血流低下が起こりえます。特に、後頭葉の血流低下がパーキンソン病に特徴的であり、認知機能障害の有無に関わらず存在し、レヴィ小体型認知症や認知症を伴うパーキンソン病とアルツハイマー型認知症との鑑別や、パーキンソン病を似た多系統萎縮症などとの鑑別に有用です。
ただし、病状の程度や治療などの影響を受けやすいため、検査結果の解釈には注意が必要です。

・ドパミントランスポーターイメージング(DATスキャン)

 線条体にはドパミンの働きに関係するドパミントランスポーター(DAT)が多く認められますが、パーキンソン病やレビー小体型認知症ではこのDATが減少しています。この検査により、パーキンソン病やレビー小体型認知症、本態性振戦と黒質線条体系に変化を来さないパーキンソン病と似た疾患との鑑別が有効です。

パーキンソン病の治療は?

原因がはっきりしていないため病気の進行をおさえる治療薬は残念ながら現時点ではありませんので、症状を改善させる対症療法が中心となります。 対症療法は、L-ドパ、ドパミンアゴニストなどを中心とした内服療法と脳深部刺激療法などの手術療法、リハビリテーションなどを状況にあわせて組み合わせていきます。 早期に治療を開始したほうが有効とされていますので、症状でお困りの場合は早期に脳神経専門の病院やクリニックを受診されることをお勧めします。

*パーキンソン病診療ガイドライン2018より

内服療法
・L-ドパ単剤
 脳内に入りドパミンに変わり、減少したドパミンを補い、パーキンソン病の症状改善効果を現す
 抹消においてもドパミンに変わるため、消化器系や循環器系の副作用の原因となるため使用頻度は減っている
・L-ドパ/末梢性ドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI)
 DCIと併用することにより末梢でドパミンに変わることが減り、L-ドパ単剤と比較し有効性と安全性が高くなった薬剤
 体が勝手に動くジスキネジアの副作用がある
・L-ドパ/DCI/COMT阻害薬配合剤
 DCIによる抹消のドパミンに変わることが減ったが、代わりにCOMT系によるドパミンが作られるのを防ぐCOMT阻害剤が併用された薬剤
・ドパミンアゴニスト
 麦角系ドパミンアゴニスト
  心臓弁膜症関連問題があり、使用には心臓のエコー検査(超音波検査)などで定期的な検査が必要
・アポモルヒネ
 非選択的なドパミンD1およびD2受容体に作用する非麦角系のドパミンアゴニスト
 効果時間が短いことから、進行したパーキンソン病で体が動かなくなったオフ症状時に症状の改善を期待して皮下注射として投与する
・モノアミン酸化酵素B(MAOB)阻害薬
 ドパミンを分解する酵素であるMAOBの働きを抑える薬剤
 三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI、抗うつ薬の一種)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI、抗うつ薬の一種)などを服用されている場合は、セロトニン症候群を引き起こす可能性があるため使用できない。
 *セロトニン症候群
  セロトニン濃度があがることにより、自律神経症状(高温、発汗異常、血圧上昇など)、神経・筋肉症状(筋強剛、振戦など)、精神症状(興奮、錯乱、頭痛など)が生じる
・カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬
 DCIによる抹消のドパミンに変わることが減ったが、代わりにCOMT系によるドパミンが作られるのを防ぐ薬剤
 ウェアリングオフのオン時間の延長効果が期待できる
 *ウェアリングオフ
  レボドパを長年服用すると薬の効果時間が短くなり、体が動かなくなる、震えがでるなど治療前の状態になることがあります。この状態をオフと呼び、体の動きが良い時間をオンと呼ぶ。
・アマンタジン
 ジスキネジアに有効とされる
・抗コリン薬
 シナプス後膜側の細胞の働きを活性化することにより、ドパミン減少を抑える
 主に向精神薬など薬によるパーキンソン症状の治療や振戦に対して使用する
 認知機能障害やせん妄、喉の乾きなどのリスクがあり、高齢者や認知機能が低下している患者さんへの使用は控える
・ドロキシドパ
 足がすくんでしまうすくみ足や起立性低血圧に使用する
・ゾニサミド
 運動症状やオフ時間の短縮に効果が期待される
・アデノシンA2受容体拮抗薬:イストラデフィリン
 アデノシン受容体が活性化すると、γ-アミノ酪酸(GABA)による抑制性のシグナルが分泌され運動機能が悪化するため、それを阻害することにより、運動症状が改善すると考えられている

手術療法
 薬の治療で改善不十分な運動症状の日内変動とジスキネジアに対して、考慮する
 認知症が合併している場合は、原則として考慮しない
 脳深部刺激療法
  治療手技:定位脳外科手術
  効果の出来る症状:運動合併症
  合併症:脳出血、機器の感染、認知機能への影響、精神症状の発現
  その他:定期的なバッテリー交換、磁場発生機器使用に対する制限の可能性、電極やバッテリートラブル
 空腸投与用L-ドパ/カルビドパ配合剤(L-ドパ持続経腸療法)
  L-ドパの欠点である薬の効果時間が短いことを、持続的に投与することによりパーキンソン病の症状改善効果を期待する。
  進行したパーキンソン病の運動症状の改善が著明であり、非運動症状の改善も期待できる。
  治療手技:内視鏡を用いた胃瘻造設術
  効果の出来る症状:運動合併症
  合併症:胃瘻造設部の皮膚トラブル、他はL-ドパ製剤と同様の副作用の可能性
  その他:ポンプ携帯や操作が煩雑、チューブのトラブル、薬代が高価


ウェアリングオフ時の治療手順 *パーキンソン病診療ガイドライン2018より

*1:ウェアリングオフ出現時は薬剤投与量が不足している可能性もあるので、L−ドパを1日に3回から4回投与していない、あるいはドパミンアゴニストを十分加えていない場合はまずこれを行う
*2:体が動かなくなったオフ症状時に症状の改善を期待して皮下注射として投与する
*3:DAT(Device aided therapy):脳深部刺激療法、空腸投与用L-ドパ/カルビドパ配合剤(L-ドパ持続経腸療法)

ウェアリングオフを呈する進行期パーキンソン病患者さんに対する治療
 L-ドパ製剤にドパミンアゴニストを加えるべきか:2A弱い推奨/エビデンスの質「高」
 COMT阻害薬を加えるべきか:2B弱い推奨/エビデンスの質「中」
 MAOB阻害薬を加えるべきか:2C弱い推奨/エビデンスの質「低」
 イストラデフィリンを加えるべきか:2C弱い推奨/エビデンスの質「低」
 ゾニサミドを加えるべきか:2C弱い推奨/エビデンスの質「低」
 脳深部刺激療法を行うべきか:2C弱い推奨/エビデンスの質「低」

リハビリテーション

 内服治療や外科的治療に加えて行うことで、症状のさらなる改善が期待できる
 一般に、理学療法士(PT)は運動療法、作業療法士(OT)は主に上肢の機能訓練、言語聴覚士(ST)は発声などの言語訓練や飲み込みなどの食べる機能についての嚥下訓練を行う。
 運動療法
  リラクゼーションや緩徐な体の撚る運動や関節可動域の訓練とストレッチング、歩行やベッドからの立ち上がりなどの移動訓練などを行う
 作業療法
  上肢を伸ばしたり曲げたりする訓練、ビーズなどを用いた細かい運動、移動訓練などを行う
 言語訓練・嚥下訓練
  横隔膜を使った呼吸訓練、構音訓練、嚥下訓練などを行う

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME