糖尿病治療薬(メトホルミン)で認知症のリスクが低下
Diabetes Care誌11月号にて、糖尿病治療薬の一つであるメトホルミンが認知機能の低下と認知症発症との関連についての研究で、メトホルミンを服用している糖尿病患者さんは、メトホルミンを服用していない患者さんよりも認知機能の低下が遅く、認知症の発症リスクが低いことが報告されました。
2型糖尿病は、認知機能障害や認知症発症との関連が先行研究で示されています。
糖尿病治療薬の一つであるメトホルミンは米国糖尿病学会の2型糖尿病薬物療法ガイドラインの2020年度版でも第一選択薬として推奨されており、日本人でも禁忌でない場合は第一選択薬とされています。
今回報告されたSydney Memory and Ageing Studyは1037人の認知症でない70歳から90歳を対象とした研究で、メトホルミンを服用している糖尿病患者67人、メトホルミンを服用していない糖尿病患者56人、糖尿病でない903人の3群に分け、6年間の経過観察のなかで神経心理学的検査を行って評価しています。
3群とも6年間の経過で認知機能は低下していましたが、メトホルミンを服用している糖尿病患者はメトホルミンを服用していない糖尿病患者や糖尿病でない群と比較して、全般的な認知機能の低下は有意に遅く(P=0.032)、実行機能の低下はメトホルミンを服用していない糖尿病患者で早く低下していました(P=0.06)。
なお記憶、言語、注意、処理速度の低下はメトホルミンを服用していない糖尿病患者で早かったですが、統計的な差は認められませんでした。
6年間の経過観察期間中に認知症を発症したのは91人で、73人(同群の8.2%)が糖尿病でない群で、8人(同群の14.5%)がメトホルミンを服用していない糖尿病患者で、メトホルミンを服用している糖尿病患者は4人(同群の6%)と最も少なかったです。
メトホルミンを服用していない糖尿病患者での認知症発症率は、メトホルミンを服用している糖尿病患者の5.29倍でした。
認知症を発症するまでの期間を分析した結果(Cox回帰モデル)、メトホルミンにより認知症発症のリスクが81%低下していました。
<今回の研究結果から、メトホルミンの神経保護作用の可能性が支持されましたが、研究から脱落した方は非脱落者よりも認知機能が低下していたため、生存者の偏りが影響している可能性あり、今後も無作為比較試験などさらなる研究が必要と考えます。
出典元
日経メディカル
Samaras K, et al. Metformin use is associated with slowed cognitive decline and reduced incident dementia in older adults with type 2 diabetes: the Sydney Memory and Ageing Study. Diabetes Care. 2020:43:2691-2701.