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睡眠薬にアルツハイマー型認知症の予防効果?

[2023.07.16]

アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も多く、物忘れ(記憶障害)を主な症状として、ゆっくり進行していく病気です。

 

アルツハイマー型認知症発症の原因として、脳内にアミロイドβタンパク質やタウタンパク質が蓄積することが考えられており、物忘れ(記憶障害)が現れる数十年前からアミロイドβタンパク質やタウタンパク質の蓄積が始まり、約10年遅れて脳の萎縮が生じると言われています。

 

また、睡眠が脳内におけるアミロイドβタンパク質の産生・排出と関わるとされており、睡眠の質の向上も重要とされています。

 

一般的に睡眠導入剤は認知症発症の危険因子とされていますが、米ワシントン大学セントルイス睡眠医学センター所長のBrendan P. Lucey氏らが実施した研究で、睡眠導入剤のひとつであるスボレキサント(商品名ベルソムラ)が、アルツハイマー病の予防に有用である可能性を示唆する予備的な臨床試験の結果を報告しました。

 

スボレキサントは、デュアルオレキシン受容体拮抗薬の一つで、オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒を促す脳内物質のオレキシンが受容体と結合するのを阻害することにより、睡眠を促します。

日本での使用方法は、成人には1日1回20mgを、高齢者には1日1回15mgを就寝直前に服用します。

 

Lucey氏らは以前の研究で、質の低い睡眠が脳内のアミロイドβタンパク質とタウタンパク質の増加に関連していることを報告していましたが、良好な睡眠の質がこれらのタンパク質の減少につながるかどうかについては不明でした。

 

Lucey氏らは認知症のない45~65歳の38人を対象に13人をスボレキサント10mg投与群、12人をスボレキサント20mg投与群、13人をプラセボ投与群(スボレキサント未投与)に振り分けし、アミロイドβタンパク質とタウタンパク質の変化について検討しました。

 

その結果、初回採取から6時間後に採取した脳脊髄液中のアミロイドβタンパク質を基準とすると、プラセボ投与群と比べてスボレキサント20mg投与群では、初回採取から12〜18時間(午前8時〜午後2時)の間に採取した脳脊髄液中のアミロイドβタンパク質のレベルが10~20%有意に低下していました。

また、タウタンパク質も、プラセボ投与群と比べてスボレキサント20mg投与群では、複数の時点で10〜15%有意に低下していました。

一方、スボレキサント10mg投与群とプラセボ投与群の間には統計学的に有意な差は認められませんでした。

さらに、翌日の夜にもスボレキサントを投与したところ、20mg投与群ではいずれのタンパク質レベルも再び低下していました。

 

この結果から、スボレキサント20mgの服用によりアミロイドβタンパク質やタウタンパク質を継続的に減少させることにより、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドプラークの増加や神経細胞を破壊するとされる神経原線維変化を抑えることにより、アルツハイマー型認知症発症を抑えるあるいは悪化を抑える可能性が示唆されたました。

 

今回の研究でスボレキサントがアルツハイマー型認知症の予防に役立つ可能性が示されましたが、小規模な研究でありさらなる研究が必要なため、予防として服用するのではなく、不眠のためにお困りの患者さまが選択肢の1つとして判断する材料として知って頂ければと思います。

出典

Suvorexant Acutely Decreases Tau Phosphorylation and Aβ in the Human CNS 

Brendan P. Lucey MD

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