これからのアルツハイマー病治療〜レカネマブへの期待〜
2021年にアルツハイマー病の根本的な治療が期待された「アデュカヌマブ」が米国で承認されましたが、効果が十分に見込めないとのことで、米国で保険適応されないことが2022年4月に決まりました。
日本でも2020年12月に保険での使用を目的に申請されましたが、現状承認の見通しはたっていない状態です。
次のアルツハイマー病治療の新薬が期待されている中、2022年9月エーザイ株式会社は、開発中である抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体「レカネマブ」について、1,795人の早期アルツハイマー病患者さんと対象としたグローバル対規模臨床第Ⅲ相CLARITY AD検証試験において、統計学的に高度に有意な臨床症状の悪化抑制を示し、主要評価項目を達成したと報告しました。
具体的には、投与18ヶ月時点で、全般臨床症状の評価指標であるCDR-SBスコアの平均変化量が、レカネマブ投与群がプラセボ投与群(偽薬)と比較して-0.45となり27%の悪化抑制を示しました(P=0.00005)。
また、CDR-SBは投与6ヶ月以降すべての評価ポイントにおいてレカネマブ投与群がプラセボ群と比較して統計学的に高度に有意な悪化抑制を示しました。(全評価ポイントでP<0.01)
CDR-SB:Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes
認知症患者の記憶、見当識、判断力、問題解決、身の回りの世話といった6つの項目で重症度を数値化したもの
アルツハイマー病の原因のひとつとされるアミロイドの脳内への蓄積をみるアミロイドPET測定による脳内アミロイド蓄積、ADAS-cog14(Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale 14)、ADCOMS(Alzheimer’s Disease Composite Score)およびADCS MCI-ADL(Alzheimer's Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment)における投与18ヶ月時点での変化についても、全ての項目においてレカネマブ投与群はプラセボ投与群と比較して統計学的に高度に有意な結果をしめしました。(P<0.01)
以前開発されたアデュカヌマブでも認められた抗アミロイド抗体に関連する有害事象であるアミロイド関連画像異常(Amyloid related imaging abnormalities;ARIA)について、血液脳関門の障害による脳浮腫による変化のARIA-Eの発現率は、レカネマブ投与群で12.5%、プラセボ投与群で1.7%で、症状を伴うARIA-Eの発現率は、レカネマブ投与群で2.8%、プラセボ投与群で0.0%でした。
微小出血によるヘモジデリン沈着によるARIA-Hの発現率は、レカネマブ投与群で17.0%、プラセボ投与群で8.7%で、症状を伴うARIA-Hの発現率は、レカネマブ投与群で0.7%、プラセボ投与群で0.2%でした。
ARIA-Hのみはレカネマブ投与群で8.8%、プラセボ投与群で7.6%と差がありませんでした。
総じてレカネマブによるARIA発現はアデュカヌマブと比べると少なく、想定内とされています。
レカネマブがアルツハイマー病の進行を遅らせ、認知機能と日常生活機能に意義のある影響を与える可能性を示しており、凝集した脳内アミロイドβの除去が、この疾患の早期の患者さんの病気の進行を遅らせたこととの関連を示したことは重要と考えます。
アルツハイマー病の根本的な治療について、前回ご報告させて頂いたアデュカヌマブは現在使用が困難な状態ですが、新しく報告されたレカネマブが安全性を担保し、効果が期待できればと期待します。
現在、レカネマブと同じ抗アミロイドβ抗体として、スイス・ロシュのガンテネルマブやイーライリリーのドナネマブもあり、アルツハイマー病の根本的な治療が現実的となってきているのは大変喜ばしいことと思います。
レカネマブ
可溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体(プロトフィブリル)に対するヒト化モノクローナル抗体。
アルツハイマー病を惹起させる因子の一つと考えられている、神経毒性を有するAβプロトフィブリルに選択的に結合して無毒化し、脳内からこれを除去することでアルツハイマー病の病態進行を抑制する疾患修飾作用が示唆されている。
凝集する前の形態のアミロイドを標的としている点が、アデュカヌマブと異なる。
出典
エーザイ株式会社