認知症に関係する7つの危険因子
2型糖尿病は、認知機能障害や認知症発症との関連がさまざまな研究で報告されています。
オランダのMaastricht University Medical CentreのApril C.E. van Gennip氏らは2型糖尿病と7つの認知症危険因子との関連を検討し、危険因子を改善させることにより、認知症のリスクが低下することを報告しました。
UK Biobank登録者約8万人を対象に平均9年間追跡し、2型糖尿病と7つの認知症危険因子との関係を検討した。
対象は2006~2010年にUK Biobankに登録され、認知機能検査と頭のMRI検査を受けた40~69歳の8万7,856例(2型糖尿病患者群1万663例、糖尿病でない対照群7万7,193例、平均年齢57.1歳、女性49.4%)。
2型糖尿病患者を7つの認知症危険因子の値がガイドラインの目標範囲にある数で4群(0~2、3、4、5~7個)に分類。
2018年2月まで追跡して、認知症危険因子と認知症の発症、ドメイン特異的認知機能(処理速度、記憶、実行機能)、脳の構造異常(白質病変、全脳容積)との関係を評価した。
7つの危険因子
・非喫煙
・HbA1c 7%未満
*HbA1cは過去1~2ヶ月間の血糖値の状態を示し、糖尿病の治療評価として使用し、合併症予防として7%未満が望ましい
・血圧130/90mmHg未満
*2019年の高血圧ガイドラインでは、診察室での血圧が130-139 かつ/または 80-90mmHgは高血圧値とされます。
・BMI 20~25
*身長と体重から肥満度を示すもので、体重kg÷身長m÷身長mで求めます
日本肥満学会の判定基準では18.5から25未満が普通体重とされます
・アルブミン尿なし
腎臓の機能が低下することにより、老廃物の濾過機能が低下することにより、本来であれば尿に認められないアルブミンが排出されます。糖尿病の3大合併症の一つである糖尿病性腎症の早期発見に重要です
・運動150分以上/週
2020年の世界保健機構(WHO)によるガイドラインでは、18歳以降の一般的な成人であれば週に150~300分の中強度の有酸素運動を提言しています。
・米国心臓病協会(AHA)Healthy Diet Scoreに基づく健康的な食生活
野菜や全粒粉、肉や魚、果物、大豆類、乳製品などのバランスよく摂取し、塩分やアルコールを減らすことなどが勧められています。
注意点は、急激な減量を行いますと、脂肪だけではなく、必要な筋肉も減ってしまうことです。
平均9.0年の追跡期間中に、糖尿病群の147例(1.4%)、対照群の412例(0.5%)が認知症を発症し、年齢、性、教育レベルを含めて検討したところ、2型糖尿病群では対象群よりも認知症発症のリスクが88%高いことが判明しました。
ここで大事なことは、2型糖尿病群であっても、目標範囲内の危険因子が多いほど認知症発症のリスクが低くなり、目標範囲内の危険因子が5〜7個ある場合は対象群と比較し認知症発症のリスクに変わりありませんでした。
また、認知機能や脳の構造についての検討においても2型糖尿病群で目標範囲内の危険因子が多いほど、機能の低下や脳の構造異常の程度は軽度で、認知症発症リスクと同様に目標範囲内の危険因子が5〜7個ある場合は、対象群と差がありませんでした。
さらに解析をすすめていくと、2型糖尿病にかかっている期間は危険度に関連なく、目標範囲内にある危険因子が1つ増えるごとに認知症の発症リスクが20%低下し、特にHbA1c7%未満、非喫煙者、アルブミン尿なしが認知症リスクを最も低下させる因子でした。
認知症については根本的な治療が開発中ですが、2型糖尿病を含め生活習慣に気をつけることは、認知症発症のリスクを減らすこと、生活習慣病自体の悪化を防ぐことから出来ることから心がけていくことが重要と考えます。
出典
Association of Type 2 Diabetes, According to the Number of Risk Factors Within Target Range, With Structural Brain Abnormalities, Cognitive Performance, and Risk of Dementia
April C.E van Gennip
Diabetes Care. 2021 Nov;44(11):2493-2502. doi: 10.2337/dc21-0149. Epub 2021 Sep 29.
https://care.diabetesjournals.org/content/44/11/2493.long