高コレステロール血症治療薬における脳血管障害の予防効果
2023年8月南デンマーク大学のDavid Gaist氏らは、高コレステロール血症治療薬であるスタチン系薬剤を服用すると、その後の脳梗塞のリスクが低下する可能について、「Neurology」に報告しました。
脳卒中(脳血管障害)は脳内に出血することによって生じる脳出血(脳動脈瘤が破裂して生じるくも膜下出血も含みます)と、脳の血管が詰まることによって生じる脳梗塞に大別されます。
なお、Gaist氏らは2022年12月に高コレステロール血症治療薬(スタチン系薬剤、以下スタチン)が脳出血のリスクが下がることについて「Neurology」に報告しています。
Gaist氏らは、デンマークの脳卒中に対する疾患登録システム(レジストリ)を用いて、2003年1月から2021年12月の間に初めて脳出血により入院加療を行い、その後30日を超えて生存した50歳以上の患者さん1万5,151人を特定しました。
これらの患者さんを、脳卒中の再発、死亡、または追跡終了(2022年8月)に到達のいずれかが起きるまで平均3.3年にわたって追跡し、スタチンの使用と脳卒中のリスクについて検討しました。
脳卒中を再発した患者さんは1,959人で、年齢や性別などを一致させたのちに、脳卒中を再発していない対照7,400人の方と比較検討行いました。
脳卒中群では757人(38.6%)、対照群では3,044人(41.1%)がスタチンを使用しており、高血圧や糖尿病、飲酒などの関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、あらゆる脳卒中の再発リスクが12%低下することが示されました(オッズ比0.88、95%信頼区間0.78〜0.99)。
次に、脳梗塞を発症した患者さん1,073人と脳卒中を再発していない対照4,035人の比較検討を行いました。
脳梗塞群では427人(39.8%)、対照群では1,687人(41.8%)がスタチンを使用しており、関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、脳梗塞の発症リスクが21%低下することが示されました(オッズ比0.79、95%信頼区間0.67〜0.92)。
最後に、脳出血を再発した患者さん984人と脳卒中を再発していない対照3,755人の比較を行いました。脳出血群では385人(39.1%)、対照群では1,532人(40.8%)がスタチンを使用していました。関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用と、脳出血再発との間に有意な関連は認められませんでした(オッズ比1.05、95%信頼区間0.88〜1.24)。
今回の研究はデンマークの方を対象としたものであり、人種による違いがあるかもしれませんが、現時点ではスタチンを使用することで、脳卒中のリスクを低下させ、脳出血のリスクを高める結果はなく、「高コレステロール血症のある患者さんには副作用など使用が難しい場合を除けば、積極的にスタチンを使用するのが良い」と考えます。
スタチン系薬剤
・肝臓におけるコレステロール合成を抑え、主に血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させ、動脈硬化などを予防する薬
・脳梗塞や心筋梗塞などの予防目的で使用される場合もある
出典
Association of Statin Use With Risk of Stroke Recurrence After Intracerebral Hemorrhage
Association Between Statin Use and Intracerebral Hemorrhage Location