糖尿病は「最初の治療」が大切?
今の血糖コントロールが、10年後・20年後の健康につながる理由
「糖尿病と診断されたけれど、まだ症状はないし、少しくらい血糖値が高くても大丈夫なのでは?」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、糖尿病の治療では、診断された早い段階から血糖値を良好にコントロールすることが大切です。
その理由を示す代表的な研究が、イギリスで行われた**UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)**です。
▶️本日の内容を簡単にまとめたショート動画です
UKPDSとは?
UKPDSは、新しく2型糖尿病と診断された患者さんを対象に行われた大規模な臨床研究です。
5,000人を超える患者さんが参加し、血糖値をできるだけ良好に保つ治療と、従来の治療を比較しました。
10年間の研究期間中、強化治療を受けた患者さんではHbA1cが平均約7.0%、従来治療では約7.9%でした。
その結果、強化治療によって、糖尿病に関連する合併症が減少し、特に網膜症などの細小血管合併症が約25%減少しました。
ここまでは、
「血糖値を良くすれば、合併症が減る」
という、ある意味では予想できる結果です。
しかし、本当に興味深いのは、その後です。
研究が終わっても、効果が残った
UKPDSの研究期間が終了すると、研究で決められた治療をそのまま続けることは求められなくなりました。
そのため、強化治療群と従来治療群のHbA1cの差は、研究終了後わずか1年ほどでほとんどなくなりました。
ところが、その後も患者さんを追跡していくと、驚くべき結果が分かりました。
研究終了から10年間追跡すると、初期に強化治療を受けていた患者さんでは、
- 細小血管合併症:約24%減少
- 心筋梗塞:約15%減少
- 全死亡:約13%減少
という結果が認められました。
つまり、
その後の血糖値に大きな差がなくなっていたにもかかわらず、最初に良好な血糖コントロールを行ったことによるメリットが残っていた
のです。
この現象は、糖尿病領域で**「レガシー効果(legacy effect)」、あるいは「metabolic memory(代謝記憶)」**と呼ばれています。
さらに24年間追跡すると……
ここで終わりではありません。
2024年にはUKPDSのさらに長期の追跡結果が報告されました。
研究開始から最長24年間の追跡では、初期に強化血糖治療を受けた群で、
- 全死亡:10%減少
- 心筋梗塞:17%減少
- 細小血管合併症:26%減少
というリスク低下が確認されました。
しかも、この「レガシー効果」は24年間の追跡でも明らかな減弱を示しませんでした。
これは、
糖尿病になった初期の血糖コントロールが、その後何十年にもわたる健康に影響する可能性がある
ことを示す非常に興味深い結果です。
「今は症状がないから大丈夫」ではありません
糖尿病の怖さは、血糖値が高くても初期には自覚症状がほとんどないことです。
しかし、症状がない間にも、高血糖は長い時間をかけて血管などに影響を与えていきます。
だからこそ、
「症状が出てから治療する」のではなく、「症状がない段階から血糖を良好に保つ」
ことが重要です。
糖尿病と診断されたばかりの方にとって、これは特に大切なメッセージです。
ただし、「血糖値は低ければ低いほどいい」という意味ではありません
ここは非常に重要です。
糖尿病治療では、
とにかくHbA1cを低くすればよい
というわけではありません。
年齢、罹病期間、低血糖のリスク、腎機能、心血管疾患などを考慮しながら、患者さん一人ひとりに合った治療目標を設定します。
また、現在の糖尿病治療では、血糖値だけでなく、体重、血圧、脂質、腎臓や心臓の状態なども含めて総合的に治療することが重要です。
糖尿病の治療は「将来への投資」
UKPDSが教えてくれる大切なことは、
糖尿病の治療は、今日の血糖値を下げるためだけのものではない
ということです。
今日の食事、運動、薬による治療、そして定期的な検査。
そうした一つ一つの積み重ねが、10年後、20年後の目や腎臓、心臓、血管を守ることにつながります。
「まだ症状がないから」ではなく、
「症状がない今だからこそ」
糖尿病と向き合うことが大切なのです。
