糖尿病について
糖尿病とは
糖尿病とは?
血糖が高い状態(高血糖)が改善されずに、長期間持続することです。血糖値を下げるホルモンであるインスリンの作用が不足することが原因です。
インスリンは糖尿病患者様が注射しているホルモンで、本来は膵臓で十分な量がつくられていますが、糖尿病になるとインスリンの分泌が少なくなったり、分泌されたインスリンが効きにくくなったりします。
糖尿病は大きく1型、2型、その他に分けられ、日本人の成人の糖尿病のほとんどは2型糖尿病です。
当院では患者様ひとりひとりにあわせて、ご相談を重ねながら食事・運動療法を行い、必要に応じて内服薬・注射製剤の必要性についてご提案します。
血糖が高いとどうなるの?
特徴的な症状として、喉の渇き、多飲、多尿、疲れやすくなるなどがあります。しかし初期の糖尿病では症状が現れないことが多いです。
また、高血糖の原因として膵臓がんなどの怖い病気が隠れていることもあるので、精査が必要です。膵臓がんや膵炎があると膵臓からのインスリン分泌が低下することがあるため、糖尿病の増悪は膵臓がんの早期発見のきっかけになることがあります。当院では血液検査を行い、インスリンがどの程度でているかチェックしたり、エコーやMRIを用いて膵臓がんがないかチェックすることができます。
血糖が高い状態をそのままにしておくと?
症状がなくても高血糖状態が持続すると、全身の血管がすこしずつ傷つけられ、細かい血管への合併症(細小血管障害)や大きな血管への合併症(大血管障害)が徐々にすすみ、それが長期間になると足壊疽、失明、透析、心筋梗塞、脳梗塞となることで生活の質に悪影響を及ぼします。糖尿病治療の主な目標は合併症の進行を妨げ、健康寿命をのばすことです。
あなたの糖尿病はどんなタイプ?
糖尿病とはインスリンの作用が不足することですが、それには主に2つのタイプがあります。①膵臓からのインスリンが出にくくなる(インスリン分泌能が低下する)タイプと、②膵臓から出たインスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性が上昇する)タイプです。患者様の糖尿病のタイプにより適切な治療方法は異なります。当院では患者様の糖尿病のタイプを判定し、よりよい治療方法をご提案します。
・①インスリンが出にくくなる(分泌能が低下する)
1型糖尿病、進行した2型糖尿病、膵臓に病気がある患者様では膵臓からのインスリン分泌が低下しています。分泌能が大きく低下している患者様ではインスリン注射が必要となります。
・②インスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性が上昇する)
肥満、過剰な栄養摂取、運動不足があると膵臓から分泌されたインスリンが効きにくくなります(インスリン抵抗性が上昇します)。抵抗性が上昇している患者様では食事運動療法を強化し、治療には抵抗性を下げるような内服薬を選択します。
糖尿病の種類
- 1型糖尿病
自己免疫やウイルス感染などが原因といわれ、膵臓のインスリンを分泌する細胞が破壊されることによって発症します。通常はインスリンが絶対的に不足するため、インスリン注射が必要になります。 - 2型糖尿病
日本人の成人の糖尿病は、ほとんどが2型糖尿病です。加齢や遺伝的要因、バランスの悪い食事、過度の飲酒、喫煙、運動不足、ストレスなどが重なって発症します。 - 妊娠糖尿病
妊娠中に初めて指摘された糖代謝異常で、糖尿病の診断基準はみたさないものの、母子の安全な出産のために慎重な経過観察と、場合によっては治療介入が必要です。妊娠中は糖尿病内服薬を使用できないため、インスリン治療を行うことになります。 - その他
膵臓の病気による糖尿病、ステロイド使用に伴う糖尿病など他の疾患や薬剤による糖尿病
遺伝子因子として遺伝子異常が同定されたもの
糖尿病の診断
<表は糖尿病診療ガイドラインより>
糖尿病の診断には、高血糖が持続していることを確認することが不可欠です。主にその基準となるのは以下です。
・空腹時血糖 ≧ 126mg/dL
・HbA1c(過去1-2ヶ月の血糖の平均を反映する指標) ≧ 6.5%
当院では検査当日に血糖値とHbA1cの値をお伝えできます。
糖尿病の合併症
糖尿病の加療目的は合併症の進行を抑えることです。糖尿病の合併症にはゆっくりじわじわ進行するもの(慢性期合併症)と、急速に起こり意識障害をきたすもの(急性期合併症)とがあります。慢性期合併症には主に、細かい血管がきずつくことによる合併症(細小血管症)と、太い血管がきずつくことによる合併症(大血管症)があります。
- 糖尿病性神経障害
初期症状は足のしびれ感、違和感で、足の端からはじまり左右均等であることが多いです。当院では神経伝導検査を行い、患者様の神経障害を評価しています。 - 糖尿病性網膜症
失明の原因の第3位です。お近くの眼科と連携し、定期的に受診していただくことが必要です。内科・眼科間の情報共有のため「糖尿病眼手帳」を用います。 - 糖尿病性腎症
人工透析となる原因の第1位です。当院では血液検査で腎機能を測定し、尿中のタンパク(アルブミン)を測定することで腎症の病状を評価します。 - 脳血管障害(脳梗塞、脳出血)
糖尿病は脳血管障害のリスク因子であることが確立されています。脳梗塞を疑う症状がある際には、当院で頭部MRIの検査を行い、脳梗塞の有無や脳血管の評価を行い、必要に応じて連携先の総合病院の脳血管神経内科に速やかに搬送します。 - 心血管障害(心筋梗塞、狭心症)
糖尿病があると糖尿病がない人と比較して心血管障害の発症頻度が2-4倍とされています。心疾患を疑う胸の痛みがある際には当院で心電図などスクリーニング検査を行い、必要に応じて連携先の総合病院の循環器内科に速やかに搬送します。 - 足の血管の閉塞
足の血管が詰まる事により、重度になると壊疽(腐る)を起こし切断が必要となることもあります。当院ではABIを用いて血管の閉塞を、CAVIを用いて動脈硬化を評価します。 - 糖尿病性足病変
白癬(いわゆる水虫)、胼胝(角質が増殖して固くなる) - 骨病変
骨質の低下による骨折 - 手の病変
腱鞘炎や手根管症候群、ばね指など - 歯周病
- 認知症
- がん
結腸がん、肝がん、膵がん、乳がん、子宮内膜がん、膀胱がんのリスクが増加すると言われています。
糖尿病の治療
治療目標とコントロール指標
年齢、合併症、低血糖のリスクに応じて、治療目標を設定します。
血糖コントロールの指標としては、HbA1c(過去1-2ヶ月の血糖の平均を反映する指標) を重視します。
65歳以下の患者さんは、合併症予防や糖尿病の悪化を抑制する目的にまずはHbA1c7.0%未満を目指します。
65歳以上の患者さんは、認知機能、運動機能、合併症、低血糖リスクなどを考慮して目標設定を行います。
・65歳以下の患者様の目標
・65歳以上の患者様の目標
<表は糖尿病診療ガイドラインより>
具体的な治療について
治療の中心は食事療法と運動療法となります。糖尿病と初めて診断された患者様が食事療法と運動療法を2−3ヶ月行っても目標の血糖コントロールを得られない場合に薬による治療を開始します。薬で治療する場合にも生活習慣の改善は不可欠だからです。なお、初診時のHbA1cが9.0%以上のときは、食事療法と運動療法に加えて薬物療法も検討します。
食事療法のポイント
- 腹八分目に抑える。
- 食品の偏りを避け、色々な種類を食べる。
- 動物性脂肪を控える。
- 食物繊維の多い食べ物(野菜、海藻、きのこなど)を心がける。
- 朝食、昼食、夕食と規則正しく食べる。
- ゆっくりよく噛んで食べる。
- 単純糖質(炭水化物の一種で、単糖類であるブドウ糖、果糖、ガラクトースなどと二糖類であるショ糖、麦芽糖、乳糖など。ブドウ糖、果糖、ショ糖は主に甘味料や菓子類、ソフトドリンク、果実、および野菜などに含まれ、麦芽糖は主に穀類、イモ類などに含まれる)を多く含む食べ物を避ける。
運動療法のポイント
- 有酸素運動、レジスタンス運動、バランス運動を組み合わせて行う。
- 運動を行うことにより、ブドウ糖や脂肪酸の利用が促進され血糖値が低下する。
- 運動を行うことにより、インスリンの効果が改善する。 *インスリン抵抗性が改善する。
- エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、体重減量効果が期待される。
- 加齢による運動不足や筋肉量低下、骨粗鬆症の予防となる。
- 高血圧や脂質異常症にも効果が期待される。
- 心肺機能が良くなる。
- 運動能力が良くなる。
- 爽快感、活動気分など日常生活のQOLを高める効果が期待できる。
運動療法の注意点として、血糖コントロールが不安定なときは、運動強度と運動時間を控えめにすることが必要です。他に眼の合併症(増殖前網膜症以上)や腎不全・心肺機能障害、骨や関節疾患がある場合は運動療法を行う前に主治医の先生に相談されるのが安全です。
糖尿病治療ガイド2020-2021より
薬物療法のポイント
まずはインスリンが必要な状態(インスリン依存状態)であるのか否(インスリン非依存状態)かを判断します。
インスリン非依存状態であった場合
- 高齢者ではスルホニル尿素(SU)薬や速攻型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)のような低血糖のリスクのある薬を避け、低血糖のリスクの少ない薬を選択します
- 肥満がない方は、DPP-4阻害薬、ビグアナイド薬、αグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)から選択します
- 肥満など体重の増加を抑えたい場合は、ビグアナイド薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬から選択します
- 慢性腎臓病のある患者さんには、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬を考慮します
- 腎不全のある患者さんには、SGLT2阻害薬を考慮します
- 心臓疾患のある患者さんには、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬を考慮します
インスリン 分泌非促進系
ビグアナイド薬
メトホルミン(メトグルコ)
- 肝臓での糖新生を抑制することが主体であるが、消化管からの糖吸収の抑制や末梢組織でのインスリン感受性の改善など様々な膵外作用により、血糖降下作用を発揮する
- 体重が増加しにくいので、過体重や肥満2型糖尿病の第一選択となる
- 重篤な副作用として、乳酸アシドーシスがある
- アルコール依存、肝・腎・呼吸・心不全、感染症、手術前後には使用しない
- 造影剤を使用する際には、検査の2日前から中止し、検査終了後腎機能に問題がないことを確認してから再開
チアゾリジン薬
ピオグリタゾン(アクトス)
- インスリン抵抗性改善により、血糖降下作用を発揮する
- 水分貯留を示す傾向があり、心不全や心不全の既往がある患者には使用しない
- 女性では骨折も増加する報告がある
αグルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
アカルボース(グルコバイ)、ボグリボース(ベイスン)、ミグリトール(セイブル)
- 糖の吸収を遅らせることにより食後の高血糖を抑制する
- 食後では効果が大きく低下するため、必ず食直前に服用する
- 副作用として腹部膨満、放屁、下痢などあるため、高齢者や腹部の手術歴のある患者さんには避ける
SGLT2阻害薬
イプラグリフロジン(スーグラ)、ダパグリフロジン(フォシーガ)、ルセオグリフロジン(ルセフィ)、トボグリフロジン(アプルウェイ、デベルザ)、カナグリフロジン(カナグル)、エンパグリフロジン(ジャディアンス)
- 近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制することで、尿へ糖の排出を促進し、血糖低下作用を発揮する
→1日500ml程度の尿量が増えるため、飲水指導が必要 - 腎機能が低下している場合は効果が期待できない ※eGFR60ml/分未満では効果は半分に低下し、45ml/分未満では効果は期待できない
- 体重減少が期待できる
- 空腹時でもかなりの尿糖が持続し、そのこと自体が肝臓からのブドウ糖酸性を高めて脂肪肝の改善を促し、さらに膵β細胞を保護する可能性がある
- 脂肪分解を促進するため、ケトン体が増加することがあり、インスリン作用が不十分な症例ではケトアシドーシスのリスクを高める
- 紅斑などの皮膚症状が副作用で認められることがある
インスリン分泌促進系 血糖依存性
DPP-4阻害薬
シタグリプチン(ジャヌビア、グラクティブ)、ビルダグリプチン(エクア)、アログリプチン(ネシーナ)、リナグリプチン(トラゼンタ)、テネリグリプチン(テネリア)、アナグリプチン(スイニー)、サキサグリプチン(オングリザ)、トレラグリプチン(ザファテック)、オマリグリプチン(マリゼブ)
- DPP-4の選択的阻害により活性型GLP-1濃度および活性型GIP濃度を高め、血糖降下作用を期待する
- 体重が増加しにくい
- 消化管蠕動運動低下を来すことがあり、吐き気や嘔吐、腹部膨満感、便秘などの消化器症状が出現する可能性がある
- スルホニル尿素薬(SU薬)と併用する場合は、その作用を強めることがあることから、SU薬を減量してから上乗せすることが望ましい
GLP-1受容体作動薬
リラグルチド(ビクトーザ皮下注)、エキセナチド(バイエッタ皮下注)、リキシセナチド(リキスミア皮下注)、持続性エキセナチド(ビデュリオン皮下注)、デュラグルチド(トルリシティ皮下注)
- 膵β細胞膜上のGLP-1受容体に結合し、血糖依存性にインスリン分泌促進作用を発揮する
- 食欲抑制作用があり、非肥満、肥満症例に関わらず、体重低下作用が期待できる
- 副作用として下痢、便秘、吐き気などの胃腸障害が初期に認められることがあり、低用量より開始する
インスリン分泌促進系 血糖非依存性
スルホニル尿素(SU)薬
グリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)、グリクラジド(グリミクロン)、グリメピリド(アマリール)
- 膵β細胞膜上のSU受容体に結合しインスリン分泌を促進し、服用後短時間で血糖降下作用を発揮する
- 血糖コントロールが不良な場合に継続すると膵β細胞の疲弊を招くので注意が必要
- 高度の肥満などインスリン抵抗性が強い場合は、良い適応ではない
- 服用により体重増加が出現することがある
速攻型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
ナテグリニド(スターシス、ファスティック)、ミチグリニド(グルファスト)、レパグリニド(シュアポスト)
- 膵β細胞膜上のSU受容体に結合し、インスリン分泌を促進し、服用後短時間で血糖降下作用を発揮する
- SU薬と比較すると、吸収と血中からの消失が速いことから、ほとんど低血糖の時間帯を作ることなく食後過血糖を改善させる
- 肝臓や腎臓の機能障害がある患者さんでは低血糖の恐れがある
インスリン依存状態
1型糖尿病が疑われる場合には、インスリン治療を開始し、糖尿病の専門医に紹介させて頂きます。
適切な治療を行うことにより、インスリンが必要な状態から改善し、インスリン治療を卒業することも可能です。
インスリン療法の絶対的適応
- インスリン依存状態
- 高血糖性の昏睡
- 重度の肝障害、腎障害を合併しているとき
- 重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術のとき
- 糖尿病合併妊婦(妊娠糖尿病で、食事療法だけでは良好な血糖コントロールが得られない場合も含みます)
- 静脈栄養時の血糖コントロール
インスリン療法の相対的適応
- インスリン非依存状態でも著明な高血糖(空腹時血糖値250mg/dl以上、随時血糖値350mg/dl以上)
- 経口薬療法のみでは良好な血糖コントロールが得られない場合
- 痩せ型で栄養状態が低下している場合
- ステロイド治療時に高血糖を認める場合
- 糖毒性を積極的に介助する場合